コーヒーをいれ、食器を並べている間もずっと君は傍にいて、
時々思い出したように身体を寄せてきた。
そっと背中に添えられる掌。
ふと触れる肩。
たまに感じる、不自然な視線。
不自然。
しかしそれは自然の中にある不自然であるから、
不快ではなく、耐えられないことはない。
しかし、その奇妙な変化は不安を呼び起こす。
どうした?
交わされていた会話の合間の僅かな隙間に入れた疑問文は、
前の会話のどこかに対する疑問ととることもできただろう。
それならば予想される回答は、その疑問は何に対するものか、と問うものだろう。
別に。
しかし、彼はそう答えた。
自分でも、この不自然さを理解してはいるようだ。
けれど、返ってきた答えは昨夜予想した通りのもので、
やはり話してくれるまで待つしかないな、と思った。
それなら、それでいい。
いつか自分から話してくれるなら。
その間はじれったいけれど、
自分が傍にいることを忘れずにいてくれれば。
何もかも知りたい、
苦しみも悲しみもすべて分かち合いたい、
一人じゃないってことをわかってほしい。
そんな風に随分長い間思ってきたけれど、
それはもしかしたら単なるエゴかもしれない。
私たちに与えられた時間が、あとどれくらいなのかはわからないが、
それでも、焦らず、ゆっくりと。
一人の人間と一人の人間が、
個と個が、
それぞれを分かりあうんじゃなく、
いつかひとつのものになれるように。
一人の人間と一人の人間が、
個と個が、
ゆっくりと互いを侵食して、
境目を失くしてしまおう。
そして、離れられなくなってしまえばいい。
結局エゴか。
それでもいい。
そう思うから、だから今は聞かない。
いってきます。
だから君にひとつキスをして立ち去ろうとしたのに、
君はまた、揺さぶる。
ねぇ。
静かな瞳がそう一息言っただけで、どうしようもなく揺さぶられる。
その続きはなんなのか、息がつまった。
穏やかで、どこか泣きそうな表情をした君を見て、
ただ、いつものあの金色の笑顔が見たいと思った。
いつか俺をおいて先にいくの?
それは、死んでしまうということ?
そう。
死なない、と約束はできない。
知ってる。
でも。
でも?
君をおいていきたくないから、
君の傍にいたいから、
生きていたいと思うよ。
君は床を見て、それから視線を戻していった。
遅れるよ。
帰ってくる頃には、彼の不安が消えていますように。
君が一度手を振るのを視界の端で捉えながら、
いってきます、ともう一度言ってドアを閉めた。
2011.08.17
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*Roy+Edward
© 2011 Nami NAKASE