今日は早く家へ帰れるよう、

彼のあの穏やかで泣きそうな表情を思い出しては打ち消し、

いつもよりも早いペースで仕事をこなした。



集中の糸が続いている間にできるだけを終わらせようとしていたから、

突然鳴った電話にいらつく感情は当然のものだと思った。









もしもし。









少し不機嫌に答えてしまったのを、すぐに後悔した。

電話の向こうには、沈黙があった。

電話をかけてきて沈黙するのは、今思い当たるのは一人しかいない。

ごめん。

そう謝ろうとした時、聞こえてきた声もまた、ごめん、だった。











































ごめん。俺だけど。









うん。









今、平気?







ああ、大丈夫。



















ねぇ。





うん?









俺ね。





うん。



























今朝、言いたかったこと。





うん。























物理的とか、なんかそういうんじゃなくて。





ん?









じゃなくて。





うん。

































傍にいてほしい、ずっと。






































うん。







































































俺、あんたがいないと生きていけないかもしれない。





































































電話が切れる音がしてからもしばらく、受話器を耳にあてていた。

無機質な電子音の先に、さっきの彼の声を探した。











自分がいないと、生きていけない。









世界中でたった一人でも、そう思ってくれるならば。

その一人が、君だから。









生きていたい、と思う。

今までよりもずっと、ずっと強く。

















君が呼吸し続ける限り、同じ空気の中、君の隣で生きていたい。































2011.08.17



 








*Roy+Edward










© 2011 Nami NAKASE