鳴らない呼び鈴







朝早く、カウンターへ手紙を取りに行くのが、僕のその日一番の仕事。

まぁ、兄さんが蹴飛ばした布団を掛け直してあげるのを別にすれば。

もうここに滞在して何日にもなるから、顔を見ただけですぐに僕たち宛の手紙を出してくれるようになった。



「おはようございます。」

「おはよう。」



手紙を受け取りながら挨拶をする。

そして二言三言交わして切り上げるのが、いつものパターン。

天気の話や、今日の朝ごはんとか。

でも今日は違った。



「今日のその手紙、随分薄いぞ。」



ちょっと驚いたけど、本当ですね、そう答えてから切り上げた。

いつも同じ差出人だから、もう覚えられちゃったんだ。

まあ、これだけの頻度で来たら当たり前か。

部屋へ戻る廊下を歩きながら、その手紙を眺める。

本当に、いつもより薄い。

いつもならこの3倍は厚みがあるのに。

悪い兆候じゃないといいけど。

そう思いながらドアを開けると、兄さんはもう起きていた。



「おはよう。」

「ん、おはよう。」



でも半分寝ぼけているみたいだ。

とろけた眼で新聞の文字を追っているけど、ちゃんと読めているかはわからない。



「はい、手紙。」

「ん。」



いつも通り、こっちには目もくれずにただ手を伸ばす。

その手に手紙を渡すと、兄さんの動きが一瞬止まった。

たぶん、その左手が手紙の薄さを感じ取ったんだろう。



「薄いね、今日。」

「読みやすくて助かる。」



憎まれ口を叩いても、心配していることぐらいわかる。

手紙の厚さだけで、兄さんの意識をここから連れ出してしまうなんて。

ちょっと嫉妬する。

そんな自分が嫌で、意味もなく窓から外を眺めた。

空には雲がちぎれて飛んでいて、青く高かった。

今日もいい天気。



手紙の内容は聞かない事にしている。

あれは兄さんへの手紙であって、僕への手紙ではないのだから。

なにか僕に伝えるべきことがあるときは、兄さんから言ってくれる。

だから、僕は聞かない。



でも、やっぱりちょっと気になる。

だからそっと、横目で見てみた。

たった一枚の便箋。やっぱりおかしい。

いつもは最低5枚なのに。

しかも、そのたった一枚にも大して文字は書かれていないみたいだ。



それなのに、兄さん。

何で何度も読み返してるの?





「一度、帰ろう。」



やっぱり何かあったのかな。

それにしては、兄さんそんなに心配じゃなさそう。

少しおかしいな、っていう感じなだけで。



「うん。」



じゃあ早く汽車のチケットと、荷造りしなくちゃね。

そう言うと、兄さんは生返事を返しただけだった。





それにしても、久しぶり。

久しぶりに、帰る。





でも、いつからだろう。

大佐のところへ「行く」のではなくなったのは。











2010.09.15




*Roy+Edward




© 2010 Nami NAKASE