ずっと強く























2月の14日にふと君に電話をかけてみる。

日にちも曜日の感覚も失う生活をしている君のことだから、

今日がなんの日が忘れていることもあり得ると思ったが、

電話の向こうの声がひどく不機嫌なのを聞いて、

ちゃんとわかっているのだな、と思わず微笑んだ。







「なんだよ。」







不機嫌そうに、君は言った。

声をたてずに笑ったはずなのに、

そのわずかな沈黙から感じ取ったのか、

君は笑うな、とさらに不機嫌な声で言った。

それもまたおかしくて可愛くて、

何も言わずに、機械越しの声を追いかけた。







「もうやらねぇぞ。」







ちょっとした沈黙の後、君は言う。

知っているよ、と私は答える。



気付かせる為の、君の密かなアプローチ。

気付いた今となっては、もうそれは必要ない。



それでも、何か欲しくなってしまう。

毎年変わらない、これだけの量のチョコレート。

それはつまり程度の差こそあれど、

好意が形を変えたものであることに変わりはない。

君がそれを知らない訳はなくて、

なんといっても彼もその中の一人であったのだから。



だから、それに対して、少し嫉妬してほしいだなんて、

たぶん、欲張りすぎていると思う。

それでも、なにか、

上手く形容できない感情ではあるけれど、

少し束縛されているような、

君がしっかりと私を掴もうとしているという事実を、

具体的に欲しくなってしまう。







「なんだよ?」







そんなことを考えてまた沈黙してしまったから、

また不機嫌そうに尋ねた。

自分でも何かおかしいと思う。

いつもはだんまりの君に私が話すのに、

今日はそれが逆だ。

それがなんだかおかしくて、

笑ったらまた不機嫌になって。







「別にチョコが欲しいわけじゃないよ。」







そう答えると君は即座に聞いてくる。







「じゃあなにが欲しいんだよ。」



欲しいから電話してきたんだろう?







その通りだ。

でも、その欲しいものがなんなのか、

上手く言葉にできない。











チョコレートは、好きという気持ちをのせて相手に届く。

もうその気持ちが届いたから、いらないだろ?



君はそう言いたいんだろう。









好き



そう初めて相手に伝えるのは、

それは相手に気付いてほしいからだ。







じゃあ、伝わった後は?



相手に何を伝えるのであろう。

なんで伝えようとするのだろう。









「なんだと思う?」







私は尋ねた。

君は黙る。

私も黙る。

沈黙が風のように流れる。

君が困ってる顔が、今自分で見ているように感じられる。



笑った顔も怒った顔も好きだけれど、

困った顔も、実は好きなんだ。











「次会う時には、それが欲しいな。」







君の返事を待たずに、私は受話器を置いた。















2012.01.24




 



 







*この気持ち、伝えたい。好きという言葉よりも、ずっと強く。










© 2012 Nami NAKASE