伝えたい









自分でこの不細工で違和感しかない感情に名前をつけるとしたら、

きっと好きって名前になるんだろう。

でも自分でそう名付けてしまったら、

きっとこいつはあり得ないほど大きくなって、

切り取ることも、なかったことにすることもできなくなる。



なんとなく、そんな気がするから、

それが怖いから、

これは今のところ、

俺に居座る不細工で違和感しかない感情ってことにしておく。









気付きはふとした瞬間、

街を歩きながらポケットに入れた手に当たった、

忌々しい銀時計を大事に握りしめた時。



あの人と俺を繋げる、この銀時計の冷たさを手に感じながら、





ああ、今なにしてるんだろうなぁ。





そんなことを思ったことに気付いたから。









その後の思考は全速力で、

したくもない解析を自動的にしていた。











そういえば、笑ってくれた日は嬉しかった。

そういえば、話せなかった日は悲しかった。

そういえば、名前を呼んでくれた日は嬉しかった。

そういえば、会えなかった日は悲しかった。

そういえば、知らぬ間に目で追っていた。

そういえば、会話を思い返すのが普通になっていた。



そういえば。









こんな感情は出会ったことがなかった。

でも、未知のものだけど、

たぶん全く知らない訳じゃない。



ただ、自分では形容しがたくて、

むしろはっきりと形容してしまったら取り返しがつかない気がして、

しっかりとした形ももたないこれは、

ただの不細工な、何か。



この不細工の所為で、今までとは何かが決定的に変わってしまった。

周りは何も変わっていないのに。



どうしようもない違和感。









でも、正直言えば、嫌ではない。

それでも、こいつの正体を認めてしまったら、

その先は絶望的だ。



だからもう少し、この曖昧な立場でいようかな。

もう暫くしたら、自然に消えていくだろうから。



















そう、

そう思っていたのに。







名前をつけていないそれは、

そうやって曖昧にやり過ごしているうちに、

いつのまにか大きくなってしまっていた。



目を瞑っても、リアルに感じられるくらいに。



質量が増える加速度はどんどんと増して、

溢れ出すイメージがありありと描けるくらいだ。



その流れが気管までせき止めてしまうのか、

時々上手く息ができない気がする。

心臓は無駄に鼓動を速めたり、

時々鈍い痛みを呼ぶ時もある。









本当に息ができていないのか、

本当に心臓が痛いのか、

そんなこと自分ではわからないけれど。









ただ苦しくて。

ただ、苦しくて。









これから解放されるというなら、

こいつを外に出してやってもいいんじゃないか、と思ってしまう。

そうしたら、それこそ絶望的だというのに。















たった一言、







好き。







そう言うだけで、全てが終わる気がした。












2012.01.09




 



 







*この気持ち、伝えたい。好きという言葉よりも、ずっと強く。










© 2012 Nami NAKASE