「答え合わせだ。」







2月15日、君は突然やってきた。

いつものようにノックもせずに入ってきた君は、

滑る様に床を歩き、

机の上の書類を上手くよけながら、軽い身のこなしで乗り上げると、

唐突にキスをした。













「好きとか愛してるとか、そんな陳腐な言葉じゃ表せない気持ちを、こうやって伝えて、確かめたいんだ。」











長いのか短いのかわからない時間の後、

君は金色の瞳を伏せてそう言った。

頬にそえられたままの掌が、とても温かい。









「何を?」









その掌に自分の掌を重ねて、

その温かさを手にしながら、

私はそう尋ねる。









「あんたがいて、あんたの隣にいるのが自分で、幸せですってね。」









君は瞳を伏せたまま、そう言った。

心臓が、何かに締め付けられた気がした。

思わず握りしめた手は、流れる動作で彼の元へ戻って行った。

それを目で追った後に見た、開かれた君の瞳は金色の海を連想させた。













「願わくば、あんたもそう思ってますように。」













そういって君は机から飛び降りた。

君はふわりと春のように笑うと、部屋を出て行こうと歩きだした。







「答え合わせなのに、私の答えは聞かないのかい?」







突然の展開の余韻に浸りながら、私はひきとめた。



君は、とても楽しそうに笑う。







「あんたが仕事終わらせたらな。」



家で待ってる。









ひらひらと手をふると君はドアの向こうに消えた。













完全で不完全で

薄っぺらで重厚で

ひどく優しく非情に冷たく 

ひだまりみたいに冷気をまとい

風のように世界を燃やす

多面的で変幻自在で

具体的かつ掴みようのない



言葉というもの。







どんなに細かく描写しようとしても、

その対象そのものを具現化することはできない。

それでも言葉を巧妙に使い、

できるだけ正確に伝えようとする。



それでも伝えきれない部分を、

君は鮮やかに、私に渡してくれた。







私が受け取ったものが、

はたして君が渡したかったものと同じかどうか、

それは永遠にわからないけれど、



それでもいい。



伝わるまで、ひたすら繰り返せばいい。











終わりの見えないものは、

切なく、悲しく、儚い。





でも、なぜだろう。



終わりの見えない答え合わせは、

なんだかとても幸せに思えた。















2012.01.24




 











*この気持ち、伝えたい。好きという言葉よりも、ずっと強く。










© 2012 Nami NAKASE