白と緑、そして君







「あれ、なんて名前だっけ?」



小さな白い花を指さして君は言った。



「あれ?」



「あれ。あそこの白い花。」



中庭の一画に咲くそれはとても小さく、見落としてしまうような儚さだった。



「シロツメクサ、かな。」



ふーん、と生返事を返しながら君は、その白い花のもとへと歩いていった。

そして、しゃがみ込んでから振り向いた。



「クローバーじゃん。」



「そうともいう。」



なんだ、というように顔を少し顰めて、シロツメクサを眺める君。



「四つ葉でも探してるの?」



君の背中に問いかけても返事はなかった。

つまらない。

なんとなく、足元のシロツメクサを一つ摘んだ。







しばらくして四つ葉探しを諦めた君が、私を見た。



「指輪?」



「そう。もう諦めたの?」



「最初から、四つ葉ごときに期待なんてしてない。」



そうだったねと答えると、その強い瞳が少し揺れた。

自分の力で進んできて、これからも進んでいく君だから。

四つ葉に運を任せるようなことは、しない。

そうだろう?



「器用だね。」



「そうかな。」



思わぬ褒め言葉に少し頬が緩む。

それを隠す為に、素早くけれどそっと君の手を掴んだ。



よかった。ちょうどのサイズだ。



案外白い君の指の、然るべきところにおさまった、それ。

不意打ちを食らったような君の顔は、しばらくして険しくなった。



「どうせ、すぐ枯れる。」



「なら石が欲しい?その薬指に。」



この切り返しは君を不機嫌にさせたみたいだ。

いらねぇ、とそう答える唇が起こっている。

それを私は、可愛いと思う。



「周りに見せつけて、変な虫がつかないようにする為なら、ぜひともつけて欲しいと思うがね。」



相変わらずしゃがんでいる君の左手が、意味もなく四つ葉を掴んでは千切っている。

その横顔は少し淋しげに見えた。



「でも、そんなものを証にできる程、私の気持ちは小さくないよ。」



「じゃあ、シロツメクサくらい?」



「そう。花の命一つ分。」



君は葉を千切る手を止めて、少し顔をあげた。

君の手に掴まれていた葉が、音もなく落ちる。



「私の命一つ分。」



今度は膝の間に顔を埋めた君。

微かに流れの変わった時間の動きに、君の声が震えた。

それはあまりに小さくて、聞き取れなかった。



「何だい?」



それ、どうやって作るの?という愛しい君の乱暴で愛らしい要望。



「教えろ。」



ほら、また可愛いことをいう。









Ein Klee hat ein Leben, es hat aber auch eine Liebe.



2010.09.13




*Roy+Edward








© 2010 Nami NAKASE