洪水
「なんで報告書って郵送じゃダメなんだ?」
「さぁ。盗まれると大変だからなんじゃない?」
その返答に一度舌打ちをして、
目の前にある報告書にもう一度向き合った。
定期的に自分の手で運ばなければならないこの紙きれの束が、
今、オレにとって最大の問題だった。
「何を今更。」
「いちいち面倒なんだよ。」
もちろん、そんなのは建前で。
ランプに揺れるインクの文字が憎たらしい。
ふわふわとしている癖に、
とてつもなく重いこの気持ちの存在に気づいてから、
それの名前を見つけるまでが、長かった。
知りたいけれど、知りたくない。
そんな矛盾に板ばさみにされて、随分時間がかかった。
わかってからの頭は、すごい速さで展開していった。
そして出した答えは、絶望的だった。
だから、会いたくない。
会わないことで今、このギリギリの状態を保っているのに、
いや、保っているなんてのは嘘で、
しっかりゆっくりと侵食しているのかもしれないけれど、
会ってしまったら、もう止められない。
加速度が増すばかりなことは、容易に想像できる。
その行き着く先はなんだ?
止まれずに、溢れてしまったら、
何が待っているんだ?
考えるだけでぞっとする。
自分のものなのに、コントロールできない感情が、
とてつもなく、忌々しい。
会いたくない。
会いたくない。
会いたくない。
会いたくない。
会いたくない。
会いたい。
「ああああ、もうやめたやめた。」
「え?」
「明日列車の中ででっちあげる。おやすみ。」
一方的にそう言って、オレはベッドに潜り込んだ。
毛布を頭から被ると、やれやれという言葉と共に灯りが消えた。
ちくしょう。
思わず口に出しそうになって、手で口を覆った。
なんで。
なんで。
なんで。
なんでこんなに苦しいんだ。
息が上手くできない。
オレの中から出て行ってくれ。
明日までに忘れさせてくれ。
勝手に流れてくる涙の理由がわからなかった。
好きになんて、なりたくなかった。
2012.06.10.
*Roy+Edward
© 2012 Nami NAKASE