月が沈んだら、またどこかへ行ってしまうのだから。

太陽が昇ったら、この腕の中からいとも簡単に抜け出してしまうのだから。

ゆっくりと互いの事を話す暇もなく去っていってしまう君。

割に合わないと思わないか?

こんなに長い間離れていたのにも関わらず。





イチ テン ゴ





いつもいつも定期的に連絡を入れろと言うのに、聞いてくれた例がない。

せめてこっちへ寄る時ぐらい連絡をよこせと妥協案を出しても聞かない。

だから、こんなことになるんだ。



「すんげぇー待ったんだけど。」



昼までに終わるはずの会議が長引いて、執務室に帰ってこられたのは空がうっすら赤く染まった頃だった。

そしてそこで突然かけられた声は、随分不機嫌だった。

いつものソファにいつもの格好、まるで自分のもののように寝そべっている君。

その不満げな顔に倦怠感はすぐに吹き飛んだ。

が、すぐに後悔した。会議の前に今日の分の書類を片付けておけばよかったと。



「なんて顔してんだ。」



彼は呆れたように笑って、報告書を勢いよく机の上に置いた。

彼の報告書はちゃんと読みたいと思う。

が、それでも今はできればさっさと目を通して終わりにしてしまいたいと思う。

何も言わずに報告書を手に取ろうとしたら、彼の左手によって妨げられてしまった。



「鍵。図書室で待ってるから。」



待っててくれるのは嬉しい。

しかし、その為に特別閲覧許可のいる棚の鍵をご要望とは、思わず笑ってしまった。

さすが君だ、と言って鍵を渡すとにやりと笑って赤い背中は扉の奥に消えた。

一言先に言っておいてくれればこんなもの、会議の前に終わらせておいたのに。

憎き邪魔者の一枚目を取って思わずため息をついた。





お預けをくらうと、人間精力的に働くものだ。

いつもこれぐらい能率よく働けばいいのに、と自分のことながら思ってしまう。

しかしそうしたところで仕事が増えるだけなので、このままでいいかとも思う。

妙に長く感じられる廊下を抜けて入った図書室には、一人しかいなかった。

その一人は珍しく、机の上に突っ伏して寝息を立てていた。

夢中になりすぎて徹夜することもあるくらいなのに、寝るなんて妙な事もあるものだ。

おもしろい本が見つからなかったのか?

それとも、もともと寝る目的でここへ来たのか?

もしそうだとしたら、きっと邪魔をしないように、と思ったのだろう。

しかし、全て推測の域だ。







いつも、思う。

彼の全てをわかることができたらいいのに、と。

いっそ溶け合って、混ざり合って、分けられないようになってしまえばいいのに、と。





愛しい頬に指を沿わせてみる。

でも、それは溶け合わなかった。

当たり前だ、有り得ないのだから。



軽く頭を振ってから、彼の肩を軽く揺すった。









君の、全てわかっていたい。

好きなもの、嫌いなもの、考え方、感じ方、全てを。

2という数字が私たちを縛るのならば。決して1にはなれないのならば。





そして今夜も身体を繋げるんだ。

この僅かな時間だけは、心も身体も共有できている気がするから。

1つであるという、錯覚。

それはまるで毒のように浸透していく。

こんな幸せな毒ならば、寧ろ自ら呷ってみせよう。









最後に眼に入ったのは、輝いた金色の世界だった。







Wenn ich mit dir eins werden koennte...



2010.06.20




*Roy+Edward








© 2010 Nami NAKASE