7:40
夜中に窓を打つ雨の音で目が覚めた。
不揃いな音が定期的にメロディを作るのを聞いて、
朝が来なければ良いと思った。
雨の日は、憂鬱だ。
曇った空に太陽は隠れて、
どうも朝という感じがしない朝が来た。
相変わらず雨が窓に身を打ちつけていて、
終わる気配は全く見られない。
薄暗い部屋の中、机のふちに腰掛けて、
積み上げられた書類の隣ある一枚のメモを取った。
急ぐわけでもなく、躊躇うわけでもなく、
メモに書かれた番号に電話をかけた。
繋いでほしい相手は、なかなか電話口にやって来なかった。
それもそのはず、彼はまだきっと寝ているから。
「もしもし。」
しばらくして聞こえてきた声は不機嫌だった。
きっと昨晩もいつものように忙しく、
これまたいつものように寝不足なんだろう。
「もしもし。」
「何?」
メモを指で弄びながら、単刀直入な質問に少し微笑んだ。
これもまた、いつも通り。
「そっちは雨降ってる?」
「そっちは降ってるの?」
その返答はつまり、彼が見ている空は晴れているということ。
「ならいいんだ。起こして悪かったね。」
そう言って電話を切ろうとすると、
彼は初めて楽しそうに笑った。
「そっちではあんた、今日は無能だね。」
「デスクワークはいつでも有能だよ。」
電話の向こうでクスクスと笑う声が漏れる。
このまま穏やかな流れに乗ってゆけ。
「それじゃあ、また。」
いつも痛みを抱えている君が、
雨の日に一人より大きな痛みに耐えているのを知っている。
自然に逆らうことはできないけれど、
君が迎える朝に太陽がいつもありますように。
この窓から見える空が、毎日灰色でも構わないから。
2011.10.08
*Roy+Edward
© 2011 Nami NAKASE