設定は空色の殻の続きです。単体でも問題ありません。(たぶん;







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カレの空色が消えるのを見て、

彼は息を呑んだ。

望んだ状況なのに、恐怖があったからだ。

彼は思う。



もう、元には戻れない。





彼はカレの震える睫を見て見ぬ振りをして、

カレの金色の髪を指に感じながら、

その薄い桃色の唇にひとつ、ふたつ、

キスを落とす。





彼はカレの反応を待っている。

心のどこかで拒絶されるのを待っている。

それは社会の威圧か、それとも暗黙のタブーか。

それとも、ただの言い訳か。







「後でやっぱりダメとか言っても、無理だからな」







彼の声はカレに届いたのか。

やはりカレは無反応だった。

それは抵抗か、それとも恐怖か。

それとも、ただの照れ隠しか。





なんにせよ、今の彼には関係のないことだ。

彼は動き始めた。

揺り動かされているカレの心を、確かに感じながら。





彼の口付けが唇から顎、そして首筋へと移動するにつれて、

カレはくぐもった声を出し始める。

行き場のない腕は、彼の肩を掴んだり、空を掴んだり。





彼の唇が、少し筋肉のついた胸に移動してから、

カレは初めて言葉を発した。







「ザックス。」







それは否定でも、抵抗でも、罵声でもなく。

それは彼の名前を呼んだ。

その続きを話さないカレに、彼はあえて問いかけることはなかった。

その代わりに下降を続け、まだ柔らかい腰の肌にひとつ印をつけた。







「嫌なら、今すぐ逃げて。」







これが最後だから







彼はそういって、一拍待った。

最後の、最後の砦。

ここを越えたら、もう止められない。

彼はそれを知っていた。

だから、逸る気持ちを抑えながら、最後の確認。





それでも、カレは何も言わなかった。

握られた拳。

テンポの速い呼吸。

それでも、彼を見据える空色の瞳。





彼はカレのそれを口に含んだ。

カレは短く高い声を上げた。

彼はカレを追い詰めていく。



性急に、確実に。



カレの呼吸は速くなる。

電気もつけず、部屋に入ってすぐの場所で。

カレの呼吸は速くなる。

身体の中で生まれる、不可思議な快感をコントロールできないまま。





やがてカレは初めて拒絶の言葉を口にする。

放せという、命令のような懇願を、

彼は聞こえていない振りをする。

一瞬身体を縮ませた後脱力したカレに、彼は言った。







「さっき、最後だって言っただろ?」







彼はカレを抱きかかえると、彼の部屋へと連れて行った。

カレにひとつキスをした後、彼は部屋を出て行った。

一人残されたカレは、自分の鼓動の音ばかり聞いていた。

もし逃げたいならば、それはチャンスだった。

けれど、カレの選択肢にそれはなかった。

カレはカレの気持ちさえ理解できていない。

けれど、カレは不思議と自然にただそこにじっとしていた。





彼はオイルを持って帰ってきた。

それは痛みをできるだけ少なくする為のものであるけれど、

カレにとってそれは未知で、恐怖だった。

強張る身体に、彼は優しく口付けた。

彼は時間を掛けて、ゆっくりとカレのそこを広げる。

それは、身体を繋げたいだけなら不必要な行為である。

しかし、彼にはしなければならないものであった。

なぜならば、彼はそれを目的とはしていない。

彼は思う、それは手段であると。





やがて弛緩してきたカレの中に、

彼はゆっくりと入っていった。

カレはひどく苦しそうで、

彼はそれを和らげようと小さなキスをいくつも落とす。

寄せられた眉ときつく閉じられた瞳。

それはひどく辛そうで、ひどく美しかった。





彼を全て受け入れて、カレは長く深い息を吐いた。

彼はしばらく動かなかった。

ただ、繋がっているという現実を直視していた。







「ね、わかる?繋がってるの。」







薄く開いた瞼から覗いた空色の瞳に、彼はそう言った。

カレは今度も何も答えなかった。



けれど、瞳を閉じて草木が風に靡くようにそっと頷いた。

彼にとって、それは十分な答えだった。





彼は動き始める。

カレはさらに追い詰められていく。

部屋に響くのは、互いの息と、声と、絡まる音。

カレは段々と意識が曖昧になっていくのを感じた。



世界が歪み、身体は軋む。



それでも絶対的な存在感を示し続ける、痛みのような快感。

生き物のように自分を追い立てるそれに、カレは成す術もなかった。

白く濁る意識を手放す寸前のカレの世界には、

彼の存在と、余裕のない声で彼が言った「好きだ」という言葉だけだった。





落ちていったカレの中で、彼は果てた。

彼はカレの身体を抱きしめる。

その存在を確かめるように。

彼はカレの身体を抱きしめる。

どこにもいかないでと願うように。





彼はこれを目的とはしていない。

彼は思う、これは手段であると。









これを手段として彼が手に入れたいもの。

その欠片は既に、彼の腕の中にある。






2010.03.10









夜尾十也様から頂きましたリクエスト「二人のお初を軽くエロ絡みで」でした。
あまりエロくできず…ご希望に副えましたでしょうか;




*Request





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